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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1018号 決定 1968年2月23日

申立人 堀敏一

右代理人弁護士 尾形再臨

相手方 石田由郎

右代理人弁護士 松本才喜

主文

本件増改築を許可する。

本件借地契約の存続期間を一〇年延長する。

申立人は相手方に対し、金一五万円を支払うこと。

理由

一  申立の趣旨

申立人は相手方から昭和四年一一月一日大田区調布鵜ノ木町五五七番一宅地三六三・六三平方米(一一〇坪)(本件借地という)を、普通建物所有の目的で期間を二〇年と定めて賃借し、その地上に建物を所有し居住してきた。その建物は昭和二〇年戦災で焼失したが、申立人は昭和二五年三月木造平家建居宅床面積約五九・五平方米(約一八坪)の建物を建築し、その後昭和二九年に約一九・八平方米(約六坪)、昭和三一年頃約一四・八七平方米(約四・五坪)を増改築した。現在地上の建物は木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺平家建居宅床面積九一・七三平方米(二七・七坪)の建物(本件建物という)となっている。ところで、本件建物には申立人夫婦と申立人の娘の夫婦及びその子供三人が居住しているが、申立人の書斎、応接室や孫の勉強室を独立させる必要があるので、本件建物の一部東側を改築し、階下に約一一・五七平方米(三・五坪)を増築した上、その上に二階二九・七五平方米(九坪)を増築する計画(本件増改築という)をたて、相手方の承諾を求めたところ、多額の承諾料の支払い又は借地の一部の返還を要求されたので、本件申立に及ぶ。

二  本件資料によれば、前項記載の事実のほか、次の事実を認めることができる。

1  本件増改築計画の実施により近隣等に迷惑となるおそれはなく、また法令に違反する点も認められない。

2  相手方は、本件借地契約は昭和四四年一一月に期間が満了となるので、その際には、相手方においてその事業(植木・造園・鳶職)に要する器具、材料の置場として使用する必要があることを理由として、更新を拒絶する予定でいると主張しているが、右の必要性が全く存在しないとはいえないにしても、現段階においてはこれをもって更新を拒絶できる正当の事由があるものと認めることはできない。

3  本借地契約においては、従来権利金、更新料、増改築承諾料等は一回も支払われていない。

三  以上の事実によれば、本件申立にかかる増改築は許可するのが相当であるというべきである。

そこで、附随の裁判の要否について検討する。

1  本件借地契約の存続期間は、前示のとおり昭和四四年一一月まで約一年半を残すだけであるから、本件終了後間もなく更新をめぐって再び紛争を生ずることを防止しておくこと望ましいというべきである。しかも、本件においては前認定のとおり、現状況のもとでは相手方に更新を拒絶するに足りる正当の事由があるとはいえない。よって、本裁判において本件借地契約の存続期間を一〇年延長することとする。

2  鑑定委員会は、借地契約の存続期間を一〇年延長することを前提として、申立人に金二六万円の支払いを命ずることが相当であるとしている。その計算は、本件借地の更地価格を三・三平方米につき一四万円、建付地価格を同じく一三万六、〇〇〇円、借地権価格を同じく九万五、二〇〇円(建付地価格の七割)と認めた上で、借地契約の更新に際して増改築を伴なう場合の承諾料を借地権価格の五%とし、本件においては一〇年間の延長であることを考慮して、その半額にあたる三・三平方米につき二、三八〇円をもって給付すべき金額とするものである。

なお、相手方提出の鑑定によれば、本件借地の更地価格を三・三平方米につき一四万五千円、建付地価格を同じく一四万九〇〇円、借地権価格を同じく九万八、七〇〇円と認め、その九%にあたる額をもって承諾料とするのを相当とし、借地権の残存期間が二年あることに基づき複利現価を求めて得た金八八万円をもって給付相当額としている。

ところで、借地契約の期間満了の際に、常に一定額の更新料を支払うべき慣習が一般的に存在するとは認められないし、また、本借地関係においては、前示のとおり過去において更新料、増改築承諾料等が支払われたことはないのであるから、そのような金銭の支払いについて一般的な合意があるとみることもできない。

そこで、本件増改築の許可及び存続期間の延長が相手方に対していかなる不利益を与えるかという点を考える。前示のとおり借地契約の残存期間は一年余にすぎないが、当事者双方の現在の事情のもとでは、更新されることは必至とみることができる。しかし、将来当事者双方又はその一方に特別の事情が生ずるという可能性はないとはいえない。従って、本件において存続期間を一〇年延長すれば、相手方としては、特別の事情が生じても延長された期間の終了までは、更新を拒絶することができなくなるということになる。すなわち、本件においては、このような不確定の不利益が考えられるにすぎないということができる。この不利益をどれだけの金額に評価して、申立人にその支払いをさせることが公平な処分といえるかについては、何らの基準はないのであるから、当裁判所は前示事実その他資料にあらわれた諸般の事情を考慮した上で、本件土地の更地価格(鑑定委員会の意見書と申立人提出の鑑定書との間で、大差はないので、鑑定委員会の意見に示されたところによる)の一%をもって相当額と認める。すなわち、端数を切り捨てた金一五万円をもって、申立人が相手方に対して支払うべき金額と定める。

よって、主文のとおり決定をする。

(裁判官 西村宏一)

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